「ねこがひるね」をしている、ゆったりした谷根千の空気感
ひるねこBOOKS webサイトの概要
「ひるねこBOOKS」は東京・谷中にある小さな書店です。猫の本や児童書を中心に古書新書合わせて、また北欧雑貨なども取り扱っています。
その公式ウェブサイトは、雑貨店のような雰囲気を持ち、喧騒を離れた静かな街のカフェでくつろぐような、あたたかく親しみやすいデザインです。店主が理想とする世界を表現したコンセプトショップとも言える「ひるねこBOOKS」の空気を、ウェブ上でも充分感じることができます。
サイトの構成はシンプルで素朴ですが、谷中の持つイメージと書店の世界観にしっくり合っています。
ターゲット
メインのターゲット層は、本や猫、アートに関心のある大人世代、特に20代後半から40代以上の女性が想定されます。
その中でも、谷根千(東京の谷中・根津・千駄木地域)の空気感を愛する層、既存の書店では物足りない層への働きかけを感じます。
1 ひるねこBOOKSのミニマムなトップページ
ひるねこBOOKS ウェブサイトトップページは、絵本のようなタッチで描かれた店頭の絵から始まります。絵本の世界にある店が現実になったかのように、スライド演出で実店舗の写真が表示されていきます。画面いっぱいに広がる画像ではなく、空間に余白を持たせることで、圧迫感を与えることなく、「静けさ」や「余韻」を伝える視覚演出がなされています。この冒頭の演出だけで、この店の「提供する空間」がどのようなものか伝わってきます。
トップページに情報は少なく、即時性のある情報に関してはSNSへと誘導しています。
写真、フォント、文字色、総合的にトーンが明るく柔らかで、下町谷中の昼下がりを思わせます。情報をはっきりと伝えるよりは、輪郭がぼんやりしたぬくもりある雰囲気をこそ伝えたいのではないかという印象です。
私が少し残念に感じたことは、せっかく印象的なロゴマークを持っているのに、トップページに使用されていない点です。一目でコンセプトを伝えるようなロゴマークだからこそ、ウェブサイトのトップを飾っていないのは「もったいない」と感じてしまいました。

2 ひるねこBOOKSサイト全体の特徴
ひるねこBOOKS ウェブサイトは、店舗紹介、ブログへの誘導によるイベント告知、オンラインでの書籍・雑貨販売などを中心にしています。
派手さとは無縁のミニマルなデザインの中に、店主の選書のこだわりや理念が随所に感じられます。
フォントや色づかいは控えめで落ち着いており、「情報を届ける」よりも「空気を届ける」ことを優先した設計が印象的です。
実店舗を構えるにあたっての店主の思いは、「暮らしのなかのゆたかな時間」をキーワードとし、ほっと一息つける時間・空間のイメージとして「ねこのひるね」⇒「ひるねこ」を店名に採用したとの記事(参照記事:BOOKSHOP TRAVELLER)に現れています。
商業的なアプローチは控えめで、いわゆる「売るための仕掛け」は目立ちません。その一方で、地域に根差した書店でありながらも、SNSやオンラインショップを活用して全国の読者との接点を大切にしている点が特徴です。
SNSに限らず、ブログやnoteなどを通じて、本や店舗のことに限定しない「想い」の発信に積極的なことが伺えます。多方面からの発信により、店および店主の考えを伝え、「共感でつながる」ファンをつくるような運営スタイルを感じます。
ひるねこBOOKSのWEB SHOP
オンラインショップも、本・アート・雑貨を並べて見せており、「売りたい」というよりも、自分の家の棚に並んだ本などを知人に紹介するような雰囲気があります。一般的に本のオンラインショップといえば素早い発送が売りですが、ここは「混雑状況により、発送まで1週間ほど頂戴する場合がございます。」との言及があり、速さにこだわってはいません。それは不便というより人の手を介しているという温もりと丁寧さを感じさせ、そういった空気感に惹かれる人に合致したショップとなっているように感じました。
3 ユーザーインターフェース
ひるねこBOOKS ウェブサイトのユーザーインターフェースはシンプルかつ直感的です。非常にミニマムな構成なのでスクロールも軽快で、スマートフォンからの閲覧にもよく最適化されています。
グローバルナビゲーションはページ上部にシンプルに配置されており、基本的にはスムーズな遷移が可能です。ただ、BLOGやオンラインショップは別サイトへのリンクとなっており、構造上ここからの回帰・回遊は想定していないようです。
Facebookを中心にInstagramやX(Twitter)へのリンクが用意されており、単にSNSとの連携というよりは、発信は即時性のあるメディアから行うという役割分担がはっきりしています。
まとめ
ひるねこBOOKS の公式ウェブサイトは、店主の想いや書店としての世界観をオンライン上に丁寧に表現した印象的なサイトです。
演出も情報もミニマムで、商業性を抑えながらも、実店舗の静かな空気や、商品選定のセンスがそのまま伝わってくるようで、店主の存在を感じる温度感があり、「見る」というより「感じる」サイト体験があります。
「ねこがひるねをしている」 ー 谷根千ファンが好むような、ゆったりと余白のある時間がウェブ上に現れており、その空気感が確実に伝わってきます。そして、実際に現地に訪れてみたいという気持ちにもさせてくれます。
ファスト社会の中で対極的にスローな、店主の個性を存分に表現したこのサイトは、町中の小さな書店が次々と店を閉める中で、新たな時代の書店・個人商店のモデルであるように感じました。