世界遺産登録のその先へ、最先端コンテンツで攻める
史跡 佐渡金山
1. 史跡 佐渡金山webサイトの概要
史跡 佐渡金山公式ウェブサイトは、2024年7月ユネスコ世界文化遺産に登録された、「佐渡島の金山」にまつわる歴史や観光施設情報を紹介する情報プラットフォームです。
この公式サイトでは、主に相川鶴子金銀山と西三川砂金山の2つの鉱山を中心に、その成り立ちや徳川幕府の直轄管理、手工業に基づく生産体制の発展など、貴重な歴史を現代の視点で紹介しています。
また、こうした文化遺産の管理・保全活動や、実際に坑道の中を巡る観光コースの情報も掲載しています。
世界遺産登録 佐渡金山
佐渡金山は、江戸時代から現代に至るまで伝統的手工業と高度な採掘技術を維持しながら、最盛期には世界の金の約1割を産出したとされる比類なき鉱山遺構です。
佐渡金山が人類共有の貴重な文化遺産として、その普遍的価値が認められたうえで世界遺産登録が決定されました。
佐渡金山は、江戸時代に全国的な金銀の産出地として発展し、多くの人々が仕事や生活の場として集まり独自の文化を築いてきました。
世界の多くの鉱山で機械化が進むなか、佐渡金山では人の手による高度な生産技術が受け継がれ、独自の鉱山文化も形成されました。
登録を契機に、佐渡島では地域の発展や観光振興、歴史的価値の継承に向けた動きが生まれています。
2. トップページについて
史跡 佐渡金山Webサイトのトップページは、世界遺産としての歴史を感じさせる構成と、「金山」を意識したデザインが特徴的です。
メインビジュアル
メインビジュアルの動画では、山頂から大きく二つに割れた山「道遊の割戸(どうゆうのわりと)」や、坑道のダイナミックな岩肌、流れ落ちる滝の景色が美しい佐渡の大自然、階段状の遺跡に見える「北沢浮遊選鉱場」などが柔らかに切り替わりながら映し出されています。
メインビジュアル上に掲げられた「世界遺産 佐渡島の金山」の文字は、金色に輝くメダルのように誇らしげに見えます。
佐渡の魅力、金山の概要をコンパクトに、そして魅力的に伝えるイントロダクションとなっています。
史跡 佐渡金山のロゴ
史跡 佐渡金山のロゴは、流れのある筆文字で表現されており、その色は、深みのある金茶から明度が高く落ち着いたベージュへのグラデーションで「金色の輝き」を表現しています。
まさに「金山」施設にふさわしい堂々たるロゴマークです。
「佐渡島」の見どころ
トップページでは「佐渡島」と「佐渡の観光地」と「史跡 佐渡金山施設」について、簡単に概要を説明し、それぞれの詳細情報への導線を設けています。
自施設にとどまらず、「きらりうむ佐渡」という施設も含めて、包括的な佐渡の観光促進への動きが見られる部分です。
「史跡 佐渡金山施設」については、予約情報(「各コース・ツアーの予約空き情報はこちらから」)や料金案内への明確な導線があり、ユーザーの興味→確認→計画→行動という意識に沿ったスムーズな誘導が見られます。
リズムとストーリー性
単なる観光地としての佐渡島の紹介に留まらず、佐渡金山という歴史資産を現代的な表現で「見せる」、ダイナミックなスクロールやフェードによる自然な画面遷移の演出が見られます。
特に目に留まるのは、スクロールに従って現れるコンテンツブロックが、扉をスライドするような表現で表示される演出です。
さらに、(現在は既に登録済みですが)世界遺産登録に向けた動画コンテンツ「SADO GOLD & SILVER MINES 日本が誇る黄金島」「SADO GOLD & SILVER MINES Another Story」の2本も埋め込まれており、静的な写真だけでなく動的な動きも加えた演出デザインで、佐渡の歴史や伝承・物語性を深めています。
動きを加えられたビジュアルに静かで説得力あるテキスト、それに動画が三位一体となってトップページを構成しており、スクロールの間のリズム感がサイト体験を豊かな時間に感じさせてくれています。
またストーリー性を感じる構成により、閲覧者が金山の歴史と現在、両面を直感的に把握できるよう工夫されています。
3. Webサイト全体の特徴
史跡 佐渡金山ウェブサイトは、佐渡金山の世界遺産としての価値を最大限に引き出すデザインで、施設の案内と魅力を伝えています。
1. サイトの色彩と「金箔」の表現
背景色:オフホワイト。わずかに濃淡のある、和紙のような雰囲気を持っています。
メインカラー:マスタード。落葉する前の銀杏の葉のような、落ち着いた黄色です。サイト内では金色のイメージを持って使用されています。
黒の文字に金色がアクセントとして色を添えているという、色設計に関しては大変シンプルなものですが、背景を彩り「金」のイメージをさらに強調しているのが、各ページのアニメーション効果です。
ページ遷移ごとに大小様々な形の金色のパーツが左右からするりと現れる演出。速度の異なるパーツがスライドする動きなのですが、その色や形と、このサイトのアイデンティティによって、金箔が舞い落ちて和紙の上に貼り付いたように感じられます。
金箔のついた和紙、それは色紙や懐紙などによく見られるデザインで、「日本の」世界遺産であることを象徴しているようです。
2. ブランドアイデンティティの明確化
「世界遺産」「黄金島」「日本が誇る伝統工芸・産業史」というキーワードが随所に見られ、施設そのものが「佐渡金山」のネームバリューと歴史的意義を一貫して継承し表現しています。
既に述べたように、公式ロゴや色彩設計も、金山の歴史性や格式あるイメージを強調するものとなっています。
3. 体験型観光・地域密着型コンテンツ

史跡 佐渡金山は、世界文化遺産施設として、コース・ツアーが用意された体験型施設です。
炭鉱の一部を利用した施設内を自由に散策するほか、解説を加えて案内する「佐渡金山コース」や「山師ツアー」が設けられています。
金箔貼体験も加わり、知識の提供に留まらず、現地で実際に「技術者になった気分」が味わえるようなアクティビティで、五感で学ぶ観光の提案意識が見えてきます。
4. ISLAND MIRRORGE
施設のコースの中でも、異色であり、特に目を引くのが「ISLAND MIRRORGEコース」です。
こちらは「世界遺産 佐渡金山」の紹介コンテンツではなく、「佐渡金山」の坑道を利用した『アトラクション』です。
最先端技術であるMRグラス(複合現実グラス)を装着することで、現実の坑道にファンタジーなデジタル映像が重ね合わされて、現実とは全く違った景色の中を進むことができるという特別な体験を提供しています。
昔の日本人の生活を現代に繋ぐ歴史的文化遺産が、アニメやゲーム内のような異世界へと変わるというのが大変ユニークです。
サイト内でも、このアトラクションには特に力を入れている様子が窺えます。
まさに『異世界』といったビジュアルを大きく表示し、アトラクションのイメージビデオにも作り込まれた丁寧さを見せています。
- 特徴: 歴史的な坑道(道遊坑コース)を利用し、MRグラスとプロジェクションマッピングを融合させた「歴史遺産×XR体験」。
- 内容: 坑道内を探検しながら、金の精霊「アウルー」とともに異世界の怪物から金山を守るというストーリーを追体験します。
- 保全と活用:アトラクションは、史跡である坑道に直接手を加えることなく、MRグラスによる非接触な演出を主としているため、遺産の保全と観光利用を両立させる手法と言えます。

正直言うと、最初にこのコースの紹介を見た時は、そのアトラクションの魅力に関係なく、そのロケーションから「なんて世界遺産にそぐわないものを」と否定的な気持ちが生じました。
それは私が、「金山」「鉱山」「世界遺産」というものに興味と関心を強く持ってこのサイトを訪問したからです。
しかし、別の角度から見てみれば、観光地施設である以上、様々な訪問者のニーズに応える必要があります。例えば家族旅行やグループ旅行では、歴史施設などに興味のないメンバーも含まれることが想定されます。そんな人にこそ、こういったアトラクションは、「来て良かった」と満足感を与えるのではないでしょうか。
佐渡島は、自然にも文化遺産にも恵まれていますが、日本全国から、また海外からのアクセスが良い地とは言えないでしょう。観光地・佐渡島がより発展する為の地盤の底上げとして、この『ウォークスルー型アトラクション』を取り入れたように感じられます。
5. 地域情報とアクセスの明快な提示
鉄道が存在しない佐渡島内の交通事情に配慮し、「佐渡金山までのアクセス方法」を詳しく説明するページや注意点の記載があります。
佐渡を旅先として選んだ人が、この施設を中心とした観光計画を立てられるような、サポート体制が整えられています。
また、自治体や周辺施設との連携によって「時間をかけてでも来るに値する地」としての「佐渡島ブランド」を共に築いて行こうという意識が感じられます。
4. ユーザーインターフェース
史跡 佐渡金山ウェブサイトのユーザーインターフェースは、洗練されたデザインと利便性の両立が図られています。
1. ナビゲーションメニュー
グローバルナビゲーションは主要カテゴリごとに簡潔に整理されていて、シンプルでサイトの世界観を崩さないデザイン意識を感じます。
トップにはさらに「MENU」ボタンも用意され、こちらは大きく展開するドロワーメニューで、階層にわかれた項目が一覧で見渡すことができ、「見学コース情報」「料金案内」「アクセス」「予約・空き状況確認」「ワークショップ案内」「お問い合わせ」など、訪問者の目的別に情報がすぐに見つかる構成です。
2. 多言語対応
グローバルナビゲーションに並んで「ENGLISH」の切り替え機能もあり、国外ユーザーへの対応もきちんと取られています。
3. 上質なビジュアル提供
トップページを含む各セクションで高画質な写真・動画が多用されており、史跡の臨場感・独自性をリアルに体感させることで、ユーザー体験の質を高めています。
「ISLAND MIRRORGE」コンテンツでもまた、精細に作り込まれた動画を取り入れています。
なかなか言葉では伝わらない最新技術による映像表現と異世界体験を、この動画によって具体的にイメージさせ、興味をひいています。
4. 細やかな演出から感じる「日本的」配慮
さりげなく感じるほど自然に、しかし多くの演出効果が取り入れられています。
既に上記でも一部述べてきましたが、その他にも、ユーザーの行動や視線に合わせた細かな演出が見られます。
例えば、一定距離スクロールが進むと、スッと固定されたグローバルナビゲーションが幅を狭めます。それはまるで、記事を読む邪魔にならないよう配慮して一方後ろに下がったかのようで、なんとなく日本的な心配りを感じるような動きです。
また、「予約をする」のCTAボタンのホバーは、文字の横にスーっと細い線が伸びていく演出です。こちらも「押してください」といった強調を感じることなく、「先へお進みください」とでもいうような、どこか慎ましい感じを受けます。
また、モバイル表示の際、トップページメインビジュアル上に表示されるのが、スクロールを促す効果を持つ、下方向へ線が伸びるアニメーションです。
「SCROLL」等の文字も一切なく、1本の長い細線の横に伸びるもう1本の細線。背景のビジュアルと呼応して、二本の長い線が、滝のような風情を持って存在してるように感じました。
歴史ある施設の世界観を壊すことなく、その価値を高めているようなデザイン性を持って、現代的なサイト表現が取り入れられているのが、大変素晴らしいと思います。
5. サイトのターゲット
- 「世界遺産」や歴史・文化に関心のある観光客
- アクティビティや体験型観光を求める層
- 家族連れなどの小グループ
- 修学旅行など団体利用者や教育機関の学習旅行担当者
- 海外からの観光客
- 地域住民やリピーター
- 金銀鉱山の産業史に興味を持つ研究者
まとめ
史跡 佐渡金山の公式ウェブサイトは、歴史的・文化的価値を最大限に引き出すデザインと情報設計が見られる、大変完成度の高い観光施設サイトです。
時に大胆に取り入れられた、また、さりげなくも細やかな演出表現は、このサイトを魅力的なものに高めています。
サイト全体の構成からは、佐渡島の観光地としての魅力を地域連携で高める意識を強く感じます。
そしてまた、世界遺産の誇りを持ちながら、現状に甘えることなく、さらなる「攻め」の姿勢も感じました。
確かに世界遺産としての「史跡 佐渡金山」は価値と魅力、そして歴史教育の場としても意義を持っています。その点に関しては、サイトを通じて、コースやツアーの詳細、料金、予約状況、アクセス方法などを一元的に提供することで、観光客・学習者双方の利便性に寄与する堅実な情報提供がなされています。
ただ、「実際の坑道の中に入る」「昔使っていた道具の展示」「ロボット人形による当時の作業の様子の再現」といったコンテンツだけでは、金山観光施設としては一般的で、独自性に乏しいとも言えます。
そこに、「ISLAND MIRRORGE」という、最先端技術によるアトラクションを加えたところに、オリジナリティと工夫を感じました。
幻想的で没入感があるという体験は、なかなか他の施設では得られない経験でしょう。歴史や鉱山にそれほど興味がない層には、特にアピール力の高いコンテンツだと思います。
幅広いユーザー層をターゲットとし、満足させる。そういった方向性は、施設を存続し、歴史遺産を「守る」為には必要不可欠なことでしょう。
訪れればきっと誰もが満足感を覚える「訪れるべき島」、そんな佐渡島を目指す人々の努力が感じられるサイト体験でした。
