オオカミが歩き、参拝者に寄り添う優しい空間
三峯神社webサイトの概要
埼玉県秩父市の奥秩父山中に鎮座する三峯神社は、日本武尊を主祭神とし、山岳信仰の聖地として広く知られています。
標高1,100メートルを超える山深い場所に位置していながら、古くから修験者や参拝者の信仰を集めてきました。広い境内には威厳ある随身門や拝殿が立ち、全国でも珍しい白い三ツ鳥居や狛狼など、独自の信仰文化が息づいています。
山道を更に1時間以上進んだ妙法ヶ岳の頂上には奥宮があり、本社の御神体山として深く結びついており、登拝が叶わない参拝者は本殿近くの奥宮遥拝殿からお参りすることもできます。
三峯神社の公式サイトは、そのような格式ある三峯神社の歴史・行事・参拝情報などを、イラストを多用したわかりやすいデザインで紹介しています。
整然としたシンプルな構造ながら、ゆったりとしたアニメーション効果を加えるなど、「見せて感じさせる」工夫が各所に盛り込まれています。
1 サイトの利用者
- 参拝希望者や信仰を持つ方々
- 秩父全体を含めた観光者
信仰参拝は中高年が中心かと思われますが、御朱印ブーム等で神社巡りを趣味とする若年層も多い為、幅広い年齢層を視野に入れていると考えられます。
特に「白い氣守」が以前メディアに取り上げられたこともあり、純粋な信仰とはいかないまでも、「ご利益」を求めての来訪者がメインだと考えられます。(*現在は白い氣守は領布休止中)
2 スプラッシュページの菖蒲菱と雲の中の世界
三峯神社のサイトでは、トップページへのアクセス時に限らず、ページ遷移の時にはスプラッシュページが表示されます。
白い画面中央にただ一つ、落ち着いた藤色で表現された社紋=「菖蒲菱(あやめびし)」の紋が現れます。
白い画面は程なく雲の形となって下に消え、目的のページが表示される演出です。
標高高い山にある神社が雲の中に飲み込まれた時に経験するであろう一面の白い世界、そこから霧が晴れて視界が開ける様子を表しているかのようです。
3 トップページの印象
三峯神社サイトトップページでまず目に飛び込んでくるのが、神社の本殿を正面から臨む景色を描いたイラストです。それはスクロールする動作に連動してズームアップするので、まるで自分が社殿に近づいていくかのようです。参拝の擬似体験のような効果が生まれ、心が引き締まるようなイントロダクションです。
4 サイトの特徴
三峯神社のサイトは各ページ、過不足ない情報を簡潔にすっきりとまとめて提供しています。長いスクロール動作が必要なく、快適な閲覧環境で利用できます。
構成・デザイン・演出
1 シンプルで見やすい構成
情報の階層が浅く、迷わず目的の情報に辿り着けます。
2 イラストビジュアルで伝える世界観
イラスト画像によって、文字に頼らず視覚的に伝えることを意識した設計です。
3 文字サイズや配色の配慮
読ませる部分は文字サイズを大きめにしたり、ゴシック体で表示するなど可読性の高さが意識されています。高齢者の利用も想定してか、誰でも読みやすいように配慮された親切さを感じます。
4 神社の世界観に寄り添った静かな演出
各ページにはさりげなくアニメーション効果が取り入れられています。特に、オオカミの歩みを表すようにポツポツと現れる足跡は、狼=「お犬様」という神社の象徴的な存在・来歴をしっかりと反映したもので、見事に世界観を表現する演出だと感じます。
5 色彩
三峯神社サイトは、全ページのデザインや色彩を統一したブランディング設計です。
クリーム色にランダムな点状の模様が入った、梳き紙のような背景を統一して使用しています。
アクセントカラーはやわらかな藤色。社紋の菖蒲菱からイメージしたものでしょうから、あやめ色と言うべきでしょうか。優しさと共に、古来から紫が象徴する格式をも感じます。
基本的にはこの2色に黒の濃淡で構成されていますが、明るい色彩のイラストが多用されているので、単調な印象は受けません。
6 イラスト
三峯神社のサイトでは、殆ど写真を使用することなく、多くのイラストを使用しています。やわらかな線にはあたたかみがあり、色彩豊かではありますが、しっとりと落ち着いた印象です。
神社、という一般的に感じる厳格な雰囲気とは離れた、人々の心に寄り添うような、ぬくもりを感じます。
7 境内案内
神社関連施設の案内も、イラストで表現されています。
縮尺はデフォルメされていますが、それでもその範囲の広大さと施設の多さがよく伝わります。
該当箇所をクリックするとポップアップ表示で詳細が分かる仕掛けがあり、アナログな見た目のイラストとデジタルの利点がしっくりと融合しています。
ただ、もしかしたらこの案内図の距離感のデフォルメと優しさが誤解を生んで、軽装で山深い中を進もうとする観光客の増加につながっている可能性も、と想像してしまうのは考えすぎでしょうか。本殿周辺に関しては問題ありませんが、一歩山に入れば観光神社の「境内」という認識でいると大変危険な地域です。「参道」とは言え奥宮へ登拝するには登山装備が必要なほどで、実はこの山中での遭難は結構多いようです。(参考:埼玉県警察・山岳遭難発生状況)
8 ユーザーインターフェース
三峯神社のサイトは、ナビゲーションメニューが左側に固定で常時表示されており、メニュー名からも内容が分かりやすく、階層が浅いので迷いないページ移動が可能です。閲覧者の来訪目的や関心に応じた項目分けで情報へのアクセスががしやすい設計になっています。
情報が簡潔にまとめられていることから、スマートフォン利用者や、高齢の閲覧者に対しても配慮されている印象があります。レスポンシブ対応がしっかり取られているので、閲覧環境をに合わせた表示となっており快適です。
一方、特に動画など重いデータを扱っていない割に、画面表示に時間がかかっている印象を受けます。
外部媒体との連携に関しては、facebook、Twitter(X)、Instagramがアイコン表示によってリンクされています。訪問にアクセスが良い地とは言えないにもかかわらず、日本中から多くの参拝者が訪れる有名神社だけに、情報の発信にはSNSを積極的に活用しているようです。
まとめ
三峯神社のウェブサイトは、観光や信仰等、目的を問わず訪れる人が安心して情報を得られる設計となっています。訪問者に余計な情報を押しつけることなく、静かに、丁寧に、神社の魅力と情報を伝えてくれます。
華美な装飾や動きは抑えつつも、アニメーションを効果的に使用しているのも特徴です。それは神社の世界観を感覚的に伝えており、拝観前から心をゆったり落ち着かせる効果まであるように感じました。
特に、見えないオオカミが歩いているかのように表示される足跡の表現は、全国でも代表的な狼(お犬様)崇拝の神社に相応しく、印象的なものです。
写真の代わりに多用されているイラストも、普段着の庶民に寄り添うような優しさを持っています。
イラストやアニメーション効果の視覚表現と、短くまとめながらも丁寧な言葉選びの文章によって、山岳信仰の聖地にふさわしい「世俗を離れた静けさの中の優しさ」を感じさせてくれます。
歴史と格式ある神社ですが、サイトからは決して重々しい感じは受けず、全体から山の清らかな空気が流れてくるかのような不思議な感覚が生まれます。
三峯神社の公式ウェブサイトは、見ているだけで心が洗われる、そんな素敵なWEBサイトでした。