しっとりとした情緒あふれる心地よさ「知の城下町」
甲州夢小路
1 甲州夢小路ウェブサイトの概要
甲州夢小路は、甲府市が推進する「甲府駅周辺の活性化」の一環として、JR甲府駅北口の歴史的街並みを再現する形で2013年に開業しました。
明治・大正・昭和初期の甲府城下町の情緒を再現した観光施設で、古民家や蔵、倉庫を移築・再現し、ショッピングやグルメ、美術体験が楽しめる場です。石畳の小道や水路を配して風情ある景観を創出するなど、地域の歴史的遺産を活かし、観光客の誘致と甲府の新たなランドマークとなることを目指しています。
統一されたレトロな世界観が大きな特徴でで、石畳の路地には、山梨の伝統工芸品を扱う店や、宝石、ワイン、地場産食材を使った飲食店などが軒を連ね、観光客が甲府の魅力を一度に体験できるよう設計されています。
甲州夢小路ウェブサイトは、その魅力を丁寧に伝えるため、「お店をさがす」「みどころ」「甲州夢小路を知る」「アクセス」といった主要カテゴリで構成されており、ビジュアルと情報のバランスの良い設計です。
この地区のコンセプトである「和洋折衷のレトロモダン」な雰囲気を統一して表現し、美しい写真と、石畳や建物を模したデザインが特徴です。施設内のショップ紹介や、イベント情報なども豊富で、観光客が事前に情報を得るためのガイドブックのような役割を果たしています。
2 サイトのターゲット
甲州夢小路ウェブサイトは、江戸から昭和初期のレトロな街並み、美術館、地元グルメなど多様な魅力を分かりやすく紹介しており、落ち着いたサイトデザインと、コンセプトある設計は、幅広い年代層の興味をひくものです。
小規模な店舗や施設が多いように見受けられることから、団体客ではなく、家族やカップル、小グループでゆったり楽しみたい方々が主な対象でしょう。
- 甲府市周辺での観光目的:歴史や文化に興味を持つ層
- 観光客や地元住民:駅近くで気軽に立ち寄りたい訪問者
3 トップページの印象
甲州夢小路ウェブサイトトップページには、石畳や蔵造りの風情ある街並み、富士山と「時の鐘」など視覚に訴える写真がふんだんに使われています。
訪問者を小江戸情緒のある空間へと即座に誘い、ノスタルジックかつ心が和む感覚を演出しています。
ファーストビューでは、蔵の窓枠や飾りに見られる形を枠にして、メインビジュアルをフェード切替で表示しています。しっとりと落ち着いた「城下町」の風景は、タイムトリップしたような「時空の旅」感を与えてくれます。
縦書きで表示される「甲州夢小路」の文字タイトルは、筆書きで表現され、江戸時代の要衝としての堅実な「硬さ」と、人々が暮らし文化を育てた地の「柔らかさ」の両面を感じます。
添えられるキャッチコピーは『好奇心をくすぐる「知」の城下町』『小江戸情緒がなつかしくて新しい、甲府の歴史を楽しめるスポットです。』
ここが単なる商店街のお店紹介サイトではなく、地元官庁が関わったプロジェクトとしてのコンセプトがはっきりと示されています。
サイトのコンテンツの紹介は、アニメーション演出を含むさまざまな表現を巧みに組み合わせて変化を出しています。
その演出の中にも工夫が見られ、例えば、横に並ぶイメージ画像は形と高さを変えることで、画面にリズムを生んでいます。
4 特徴
甲州夢小路ウェブサイトは、サイト全体でレトロな情緒と現代の心地よさを丁寧に融合させ、「なつかしくも新しい」「歩いてみたい」を実感させるという、この地域のブランドを作り上げています。
徹底したコンセプトの反映
サイトは、「知の城下町」というコンセプトを掲げ、甲府市や山梨県の歴史的な背景を伝える役割を前面に出しています。そこには民間の商店街ブランディングとは一味違った、官主導での開発らしさが現れているように感じます。
- 歴史と文化の融合:江戸から昭和期の建築様式が再現され、地元の伝統と時代性が楽しめる空間です。
- 甲府市・山梨県を象徴する店舗構成:ワイン、ジュエリー、土産店、グルメ、美術館など多彩なジャンルの店舗は、山梨県や甲府市を代表するものを取り扱っています。
- 文化体験の場:「時の鐘」の再現や美術館展示によって「知る」体験散策が用意されています。
- 情緒あるビジュアル:使用される写真は、派手さがなく、しっとりと落ち着いた色調でまとめられています。小江戸と呼ばれる風情を感じさせるビジュアル選択です。
サイトの色彩
背景:地紋のあるごく薄いベージュ。甲州和紙の産地であることを反映しているのでしょう、霞のような濃淡の地紋があることで、「和」の雰囲気が全体に漂う効果を生んでいます。
メインカラー:薄ベージュ。背景と同トーンで深みを増した色の為、サイト全体が大変落ち着いた、大人の雰囲気が出ています。柔らかな色で統一された画面では、「黒」がより目立つ効果を生んでいるように感じました。
アクセントカラー:茜色。落ち着いた画面で唯一はっきりと主張するような色です。深みはありますが穏やかな赤で、しっとりとした画面を乱す事なく彩りを加えています。この赤色は葡萄色とは呼べませんが、甲州の赤ワインを表現しているのではないかと感じられました。
テキストによるデザイン
前述のように、落ち着いた色彩の中で、文字が持つ「黒」が目立つ構成です。そのためか、文字組には大変丁寧さを感じます。
見出しの大きさには、全体から見たバランスとリズムへの意識が見られ、キャプションや説明文に関しても、行幅や行間を持った文字のブロック一つ一つがデザイン要素として存在している印象です。
「黒い文字」だけでなく、メインカラーのベージュや背景より薄いベージュを使用した文字を織り交ぜ、また、フォントも一般的な明朝体を主にしながらも、画像化した別の明朝体や英字フォントも散りばめることで、色の穏やかなサイトをテキストによって飾っています。
5 ユーザーインターフェース
甲州夢小路ウェブサイトは、情報が構造化され、見出しやリストによる「みどころ」「店舗紹介」など、ユーザーが必要な情報にすぐアクセスでき、使いやすいサイト設計がしっかりと構築されています。
ナビゲーション
ナビゲーションはカテゴリごとに整理され、「みどころ」「お店をさがす」「アクセス」などが明示されていて動線が分かりやすくなっています。ホバーでサブメニューが現れる配慮もあり、情報アクセスの利便性を向上させています。
レスポンシブ対応
サイトはしっかりとしたレスポンシブ対応がとられ、モバイルファーストな設計思想も見受けられます。
例えば、トップページの形に変化のあるイメージ画像ですが、PC表示では高さを変えたリズムで表現し、モバイルではカルーセル演出のスライド表示となっています。
SNSとの連携
グローバルナビゲーション上およびフッターには、facebook、Instagramへのアイコンが表示されています。目立つ配置ではありませんが、全体のしっとりとした印象を壊さない控えめさが好印象です。
各店舗ページにも、それぞれのアカウントへの誘導が見られます。
まとめ
甲州夢小路の公式ウェブサイトは、小江戸の街並みを再現したレトロな風景と、山梨県の玄関口「甲府駅」駅近という現代的な利便性の共存を、ビジュアルと構造の両面で美しく表現しています。
「知の城下町」というコンセプトが、画像に映る街並みにも、このサイトにも色濃く反映されているのが素晴らしいです。
しっとりとした情緒あふれる街並みは、ウェブ上からも心地よさを伝えてくれます。紹介される店舗はどれも山梨県の魅力を伝えるもので、「観光立県山梨のランドマークとして誕生した」という来歴に相応しい魅力に溢れています。
作り込まれたサイト全体の中でも、私には、デザインの丁寧さが特に印象的に感じられました。モバイル表示に合わせた演出表現の変更、ビジュアルの色合い、文字組みのバランスへのこだわりなど、隅々まで気を遣った様子には感銘を受けました。
丁寧なサイト設計とブランド演出には大変好感が持て、甲府の街の歴史を感じながら散策し、山梨県・甲府市についての「知」を深めたい、自然とそんな気持ちが湧き上がってきました。