新しい四万温泉の魅力に出会える「新感覚・湯治のススメ」
SHIN湯治ウェブサイト
1 SHIN湯治Web サイトの概要
SHIN湯治ウェブサイトは、群馬県・四万温泉での現代的な「新感覚・湯治のススメ」とでも言うべき、新しい温泉の楽しみ方を提案しているサイトです。
シンプルに1ページのみのランディングページで構成されており、情報量も絞られ、四万温泉のイメージの変換をはかるような内容となっています。
サイト名称から見て、四万温泉にある「SHIN湯治ホテル LULUD」の外部広報サイトと捉えて良いのでしょうが、直接の予約導線どころかリンクすらありません。
従来の湯治のイメージには興味を惹かれない層に対して、四万温泉の魅力を他の視点からアピールする、ホテル単独、というよりホテルグループによる四万温泉ブランディングサイトと言えるでしょう。
2 ターゲット
SHIN湯治は、20代から40代までの比較的若い社会人向け、特に「旅の中に癒しを求める人々」に向けて発信されていると感じます。
「自分を見つめ直したい」「心身のリセットを求めている」ような層、特に自然や伝統に寄り添う静かな体験を求める方の心に響く内容でしょう。
アクティビティ情報も豊富なことから、落ち着いて温泉、というよりは、行動した先に変化する自分を求めている層に向けた設計だという印象です。
3 ファーストビューの印象
SHIN湯治ウェブサイトは、画面一面に広がる緑豊かなダム湖(四万湖)の画像から始まります。四万湖の水面は時には『四万ブルー』と呼ばれる深い青に見えるとか。ここでは優しくやわらかな色をしていますが、青い空と緑の木々を映し、人の目を惹きつける魅力を持っています。山あいの土地ながら、湖から空まで視界が開けており、開放感を感じる清々しいビジュアルです。
私が「湯治」に感じる、古風でしっとりしたイメージとは全く違うもので、このメインビジュアルから視覚を通してしっかりと、新しさ=『SHIN湯治』の姿が伝わります。
中央にはキャッチ『自然の優しさにつつまれ 新たな自分を発見する旅』とあり、「体の不調を治す」とか、「温泉に浸かる事が目的」のようなものではないことを宣言しています。
4 SHIN湯治のロゴマーク
メインビジュアル左下にはSHIN湯治のロゴマークが表示されています。一文字分のスペースで表現される「SHIN」はSを小さく、IはNに寄りかかるように斜めになっています。続く「湯治」はどちらも氵(さんずい)を偏に持つ漢字ですが、デザイン化された「SHIN」は、遠目には同じく”さんずい”の漢字の一つではないかと思ってしまうくらい3つのパーツが馴染んでいます。
アルファベットのワードを、あたかも漢字のようにデザインするというのは、大変ユニークで、そのアイデアとここまでしっくりまとめあげたことに感銘を受けました。
また、”さんずい”という同じ偏でも、「湯」の字は少し曲がった線を持つ”さんずい”で、「治」の字はSHINで表現されたものと同じく直線で表現されています。中央だけ違いがあることによって、より目を引く効果を生んでいるように感じました。
5 SHIN湯治ウェブサイトの特徴
SHIN湯治ウェブサイトは、『現代のための湯治』を旅行ガイドのような形で紹介しています。
四万温泉での楽しみは温泉に限らず、ヨガ、坐禅、写経、登山、川遊びなど、アクティビティも含めた多岐に渡るものがあると紹介しています。
豊かな自然や街歩き、食、カヌー等川でのアクティビティなどの写真が並び、それぞれが今まであまり周知されていなかった「四万温泉の魅力」を、五感で感じさせるように訴えています。
涼しそうな川辺でチェアリングをして寛ぐ様子や、思い切り水を浴びるキャニオニングなど、視覚を通して「ああ、やってみたい」と思わせるようなビジュアル演出です。
1 アクティブレスト・デトックス
一昔前は、疲れたら「休む」と動かない方向が主流でしたが、現在は体を動かす方が疲労が取れる、と「アクティブレスト」が推奨される傾向です。
この「SHIN湯治」もそのトレンドに沿った方向から、心が疲れ気味の現代人へ働きかけている印象を受けました。
温泉はもちろんですが、ヨガや坐禅、写経などの提案により、「デトックス」方面へのアプローチも強化されています。
2 控えめな誘導
その名称に反して、このサイトにはSHIN湯治ホテル LULUD へのリンクすらありません。
「book」とされるコンテンツには、自然の中で寛ぐイメージ画像に「四万温泉」のGoogleマップへのリンクがあります。つまり、特定のホテルではなく四万温泉全体の温泉宿やレストラン、あるいはアクティビティへの予約を促している形です。
とはいえ、記事中に紹介されているのは、SHIN湯治ホテル〈 LULUD ルルド 〉のグループ施設で体験できるものが中心です。四万温泉全体の需要喚起を図りつつ、やんわりとグループホテルやカフェへの誘導が図られています。
※このサイトの運営会社について:エスアールケイでは、旅館「鹿覗きの湯 つるや」や温泉グランピング「シマブルー」、SHIN湯治HOTEL「ルルド」、森のカフェ「KISEKI」と多種多様な施設を運営しています。(株式会社エスアールケイ)
3 色彩・フォント
背景はランダムなグラデーションの明るく淡いグリーン。陽を浴びて木漏れ日を落とす新緑の葉を思わせます。
アクセントカラーはターコイズブルー、メインビジュアルの湖面の色を表現しているのでしょうか。
フォントはゴシックで、キャプションはサイズを大きく存在感を持って配置されています。本文は、このサイトのイメージ「癒し」にしては文字が詰まった印象です。もう少しゆったりと行間をとった方が、自然の中や温泉で寛ぎ安らぐイメージが表現できるのではないかと感じました。
6 ユーザーインターフェース
SHIN湯治ウェブサイトは、スマートフォンでの閲覧にも快適なレスポンシブ対応が取られています。
特に多言語への対応は見られませんが、日本人が持つ従来の「湯治」のイメージに対する新提案サイトなので、日本語だけのサイト設計も納得できます。
1 ナビゲーション
サイトのナビゲーションは上部固定のグローバルナビゲーションに、更にハンバーガーボタンによるナビゲーションが併存する形をとっています。
メニュー並列のグローバルナビゲーションは、フォントサイズが小さい白文字で、濃い色のビジュアル上でも控えめで目立ちませんが、白の背景の上では全く見えなくなります。その為、ハンバーガーナビゲーションがPC環境でも表示されているのかもしれません。見えなくても代替方法があるから問題ない、ということでしょうか。
グローバルナビゲーションメニューにはHOMEやトップの項目がなく、Topへ戻るボタンもないので、スクロールかハンバーガーメニューでしか冒頭に戻ることができない設計です。デザイン性と利便性の折衷案としての併用対応なのかもしれませんが、こうなると、グローバルナビゲーションの存在意義に疑問が残りました。
ハンバーガーメニューは、クリックで上からアクセントカラーのターコイズブルーの背景とともに現れます。文字ははっきり見やすく、使用感も良いです。何より、このブルーが私には大変心地よく感じられました。
2 リンク
単一の目的のために設計されたランディングページということは理解しつつ、リンクがありそうでない印象を受けるのは否めません。
特に、「contents」セクションでは、興味を惹く画像の上にカーソルを合わせると「四万温泉の景色」や「四万温泉の食」といった文字が現れるので、クリックして詳細情報が表示されるのを期待してしまいます。ところが「イメージキャプション」といった感じの短い文章が現れるだけなので、少し拍子抜けしてしまったのが正直なところです。
「book」セクションも、記事に興味を持ってすぐに予約したいと考えたユーザーにとっては、「book」から予約への導線がないのは困惑を生むことでしょう。
直接的なリンクで「企業サイト感」を出したくないのは理解できますが、それならば「book」という言葉を避けるなど、もう少しユーザーの行動目線を考えてもらえれば、と、もどかしく思う部分です。
まとめ
SHIN湯治ウェブサイトは、従来の湯治のイメージから脱却し、若者を中心に新たな層の発掘を目指しています。湯治をというよりはむしろ、湯治が象徴する四万温泉の従来のイメージの一新と言った方がしっくりきます。
その方向性は明確で、並べられたビジュアルだけでも、今まで持っていた四万温泉のイメージが覆るほどの効果を持っています。
加えて、「アクティブレスト」や「デトックス」など、社会生活で疲れた若い世代が求める「癒し」の傾向にあった方向性が評価できます。
個人的には、アルファベットのワードを、漢字のようにデザインした「SHIN湯治」のロゴマークが特に印象的でした。
多少ユーザーインターフェイスに荒削りな部分が見られはしましたが、現代の湯治=癒しにマッチした「SHIN四万温泉」のブランディングサイトとして、このサイトは地域の魅力発信に貢献することを身を持って感じました。私も四万温泉で自然に包まれて過ごしたい、本気でそう思わせてくれた魅力あるサイトでした。