土地の「床価値」を高めるー 理想を熱く語るブランディングサイト
THE STANDARD BAKERSウェブサイト
1 THE STANDARD BAKERSウェブサイトの概要
THE STANDARD BAKERS(ザ・スタンダード・ベイカーズ)は、2018年に栃木県宇都宮市大谷町で創業、2025年8月現在9店舗を全国に展開するベイカリーショップです。
その企業活動は、一般的なチェーン店とは異なった方向から取り組まれているのが特徴です。「その土地の『床価値』を高め続けること」という企業理念を掲げ、空き家や耕作放棄地などに「賑わい・活気・エネルギー」を創出し、雇用と交流を生み出すことで地域全体の価値を高めるという目的の実現手段としての、ベイカリーショップの経営という店舗展開です。
「土地に馴染むこと」と同時に「刺激を与えること」という相反する要素をバランスよく両立させ「整える」チームであることを強みとしています。
THE STANDARD BAKERSの公式ウェブサイトは、このような理念を訪問者に積極的に伝える役割を持っています。「パン屋さんのお店情報の掲載サイト」とは全く違った、企業意識の高さによって全体が構成されているような、非常にユニークな企業サイトです。
2 フェーズの転換期
上記のように、「雇用と交流を生み出すことで地域全体の価値を高める」という目的で、宇都宮市大谷からスタートしたTHE STANDARD BAKERSですが、その象徴的な「大谷本店」が2025年7月に閉店を迎えています。
同時に、都内に新たな2店舗の出店予定が発表されており、地方から都市圏中心への明確な事業転換が見られます。おそらくブランドが成熟した段階に入ったからこその、思い切った決断なのでしょう。
企業成長を目指しながらも、企業の中核をなす理念を失わずに進めるか、非常に注目すべき時期なのではないかと思います。
3 THE STANDARD BAKERSウェブサイトのターゲット
店舗としては、単純に美味しいパンを求める人、地元愛や地域性を大切にする人々、あるいは丁寧な空間と味わいを求める感性豊かな来訪者が購入者・利用者となるでしょう。
THE STANDARD BAKERSウェブサイトに関しては、ベーカリー商品購入者やレストラン利用者の中でも、企業理念に賛同する層への働きかけが強く出ている印象です。
また何よりも、店舗の誘致を希望する空き店舗のオーナー、OEM製造委託やFC出店を検討する経営者、そして店舗での就業希望者へのアピールを大変強く感じるサイトです。
4 トップページの印象
THE STANDARD BAKERSウェブサイトトップページは、「ちょっと気になった素敵なベーカリーのお店情報を見よう!」と思って見てみると、あれ?と思うような意外性を感じると思います。
1 ファーストビュー
THE STANDARD BAKERSウェブサイトを訪問するとまず、沢山のパンが並んだビジュアルから始まり、中央にはアニメーションで、四角い枠線、「THE STANDARD BAKERS」のロゴタイプが順に表示されていきます。
ビジュアルは左上部から自然光が差し照らし、山型=三角構図の計算された美しさで撮影されています。
美味しいパンを丁寧な仕事で作るベーカリーのウェブページ、その理想型のようなファーストビジュアルです。
2 ブランディング:その土地の「床価値」を高め続けること
スクロールした先に展開されるコンテンツは、パン作りへの情熱でも、こだわった食材の紹介でも、食事スペースの雰囲気の紹介でもありません。
「私たちについて」として語られるのは、土地に活気を生み、雇用を生み出し、その土地の「床価値」を高めることが目的だという、企業理念です。
私はここでの主張を読んで、『地域と一体となって成長し成功することによって、地域の活性化を産む』、という意味だと判断しました。厳密に同じではないかもしれませんが、地域の活性化を「床価値を高める」と表現するのは非常に独創的で、言葉が先行するブランディング戦略だと感じました。
3 色彩と配置
背景は白。ヘッダー、フッター、その他はグレーの濃淡でトーンを統一。
ビジュアルはトップと同じく自然光を生かし、ややハイトーンでコントラストも強め。白の眩しさが感じられるフォトです。
コンテンツは、
- 空間を広く使った余白の多い配置
- 画像+キャプションのブロック配置
の2つを交互に配置してリズムを出しています。
トップビジュアルは、バックグラウンド固定ですが、パララックスというよりは、「額縁」として存在している印象です。
ただ、フッターのロゴタイプが透明になっているので、スクロールに応じて背景のビジュアル色に変化を続けるのが、ふと目をひく効果を生んでいると感じました。
4 テキスト
見出しは明朝体で大きく、本文はゴシック体で、ジャンプ率をかなり大きくしているので、強調したい部分が際立っています。
企業メッセージは気持ちがこもりすぎているのか、やや分かりやすさに欠けている印象を受けました。フォントサイズと内容の熱量もアンバランスなのかもしれません。強い想いを持っていることを主張したい、という雰囲気はよく伝わります。
5 サイト全体の特徴
THE STANDARD BAKERSウェブサイトは、ベーカリーショップのウェブサイトというよりは、「株式会社 CULTURE BANK STUDIO」という企業の理念を表明し、共感を広めていくという意識が強く出ているサイトだと感じます。
「地元として誇れる場所を作り続ける
クリエイティブ集団であることを目指しています。」
パン屋さんではなく「クリエイティブ集団」。こういった姿勢を知れば、このウェブページの構成も納得できます。サイト全体の世界観は、この思想に貫かれています。
リクルート
リンクされる求人ページは、また独自のホームを持つ別サイトのような構造です。
- 募集職種
- 社員インタビュー
- 会社紹介
- 教育プログラム
- お仕事開始まで
以上に項目分けした内容濃いものとなっており、こちらでも会社の理念が熱く語られています。
6 ユーザーインターフェース
THE STANDARD BAKERSウェブサイトは、上部に常にグローバルナビゲーションが配置されており、項目は英語表記ですがシンプルで分かりやすいです。「Shop」はドロップダウンで各店舗が表示され、目的情報へのアクセスよく設計されています。
フッターには、Instagram、Facebookのアイコンリンクがあり、また、各店舗からもそれぞれ発信があるようです。
一方、ウェブサイトからの発信には積極性が見えず、新着情報は2022年で止まっており、1号店である「大谷本店」および「宇都宮駅ビルPASEO店」の閉店に関しても、「大谷本店」Shopページで言及があるのみです。
まとめ
THE STANDARD BAKERSウェブサイトは、理想的なベーカリーショップサイトの顔を持ちながら、中身は心熱い言葉に満ちた、企業理念発信ブランディングサイトです。
整理されたコンテンツと余白を持ったデザイン、グレー系の色彩設計はシンプルで爽やかなものですが、語られる企業哲学ともいうべき、目的・希望・決意は熱意と理想に満ちています。
地方発で全国展開まで成長し、全国でも超激戦地と思われる東京駅内店舗で成功を収めているのは素晴らしい成果です。その上、この秋には都内に更に2店舗の出店も予定されているとのことです。
一方、企業理念のベースというべき地方の「本店」の閉店というアンバランスに見える現在の状況は、どうしても、地方での事業展開を諦め、すでに「床価値」のある大都市での事業に舵を切ったように見えてしまいます。
サイトで繰り返し語られた理想と「さまざまな事業」という言葉を受け取れば、「パンの販売」は理想を叶える一つの手段でしかなく、おそらくこの先の展開にはかつての「本店」を含めた地方需要創出プランを描いているということになるのでしょう。
「土地の床価値」を上げる事業によって地域振興を進める、という企業理念を見失わずにブランド成長を続けられるか、今は企業が大きくなる上で通るべき試練の時期なのかも知れません。